シングル・オリジン・ティーを巡る冒険 #3 : シングル・オリジンと UL NDT その1

静岡市清水区、興津川の上流には「キャンプ適地」と言われる、誰でも無料で泊まれるキャンプ場が2つほどある。無料なので売店があったり、食堂があったりということでは無いが、トイレと水場は付いており、ソロキャンでまったりするにはちょうど良い。むしろ、あまり便利すぎるキャンプ場というのは、便利すぎて何をしに山まで来たのかわからなくなるという矛盾のある場所なのだ。トイレや水場があるということだって、よっぽど贅沢だ。

この日は西里キャンプ適地にテントを張り宿泊しようと考えていた。バスを乗り継ぐつもりが乗り継ぎ先のバスが休日は運行していないということに気づいて唖然としたが、西里温泉の方にバス停まで迎えに来ていただき「やませみの湯」までたどり着き、湯に浸かって一息付いた後、また温泉の方に送っていただき、なんとか西里キャンプ適地へ到着した。旅ではいつも誰かに助けられる。今までの旅では優しさを学んできた。それをいつでも誰かに返せるようにしたいと思うのだが。

日曜の午後だったが、西里キャンプ場には沢山の人が溢れていた。緩やかな流れの川が近いので、テントを貼って夏の終わりの川遊びをしている人が多いようだった。日が傾き始めると、一組、また一組とテントをたたみ、4時を回る頃には私と焚き火をする二人組みの男、二組だけになってしまった。

日が暮れると面倒なので、手早くNemoの二人用テントを張る。ニンジャタープで屋根をかけ終え、気がつくと先ほどの二人組の姿はすでに無くなっていた。キャンプ場には私一人。秋の虫の声が辺り一面を埋めている。

まだ日が残っているうちに、試してみたいことがあった。葉桐さんからお土産でいただいたシングル・オリジンの茶葉があるので、これでシングル・オリジン野点をしてみようと思ったのだ。

一品更屋の野点は、ウルトラライトハイキングの考え方を取り入れている。ULハイクの徹底して無駄を削ぎ落とすという思想が侘び茶の教えと合致しており、現代において野点を行うにはULハイクのストイックさや使う道具を踏襲しないという手はない。もちろん、自由に野に出て歩き回り、気が向くままに茶を点てるには、超軽装の方が勝手が良いという実用的な面も大きい。

ウルトラ・ライト・野点、つまり UL NDT となる。

ヘリノックスのチェアゼロを広げ、SOTOのポップアップ・ソロテーブルを展開する。PRIMUSのバーナーにエバニューのチタンクッカーを乗せ、スノーピークのチタンカップを準備する。茶はシングル・オリジン「やまかい」にしてみる。

最初はお湯で淹れてみることにした。葉桐さんで教わった、皿出しスタイルで淹れてみる。

クッカーの蓋兼フライパンとなる容器に、細く美しい茶葉を広げ、お湯を沸かす。沸騰する前にお湯を止め、茶葉に注ぐ。温度は何度かわからないが、感覚的には80度ぐらいにはなっていただろう。茶葉が開くまで5分ほど待つ。

葉が開ききり、湯が濃い黄色になったところで、カップに注ぐ。専用の容器ではないのでどうしても茶葉がカップに入ってしまう。これは何か対処方法を考えなければいけない。まずは一煎目。

苦い。

味はしっかりと出ているが、エグ味が強すぎる。葉桐さんで頂いた際は温かなお茶でももう少し温度が低かったことを考えると、お湯が熱すぎたのだ。湯冷ましがあった方が良さそうである。一度カップにお湯を入れ湯を冷ましてから茶葉に注ぐ方法が良さそうだ。やまかい自体は味が安定して出ているため、二煎目、三煎目といただく。

小さい頃からお茶は熱いものだと思っていたが、これはどうしたものだろう。葉桐さんでいただいた際のあのお茶の味、その温度。口全体に広がる清涼感をもう一度イメージしてみる。

シングル・オリジン・ティー。どうやら既成概念との戦いが必要なようだ。

つづく

一品更屋 更屋松柏

* このコラムは更屋松柏の個人的な意見に基づくもので、関係する企業・団体・個人の意見とは異なります。このコラムに関するご意見・ご質問は一品更屋までご連絡をお願い致します。

シングル・オリジン・ティーを巡る冒険 #2 : 葉桐さんに聞く その2

茶・茶・茶

立て続けにお茶をいただく。全てシングル・オリジン。

こんどうわせ

佐久間

香駿とやまかい

急須を使いぬるま湯で淹れたものも飲ませていただいたが、常温・皿出しの方が美味しく感じる。

摩利支

細かな味の違いはまだ表現できないが、個人的な好みは香駿。やや角がある味だが、爽やかである。

東頭、始まりの味

最後にいただいたのが、今回の目的でもある東頭。こちらも常温・皿出しでいただく。

バランスが良い。他のお茶が何か個性的な、味の角になる部分があるのに対し、東頭は旨味、風味、香り、深み、清涼感と全てのバランスが良く、口のこりが穏やかである。これが静岡のシングル・オリジン、始まりの味である。

もちろん、最初は単一農園・単一品種のお茶は沢山あったのであろう。しかし、大量生産の時代になると、手間がかかる上に少量しか生産できない、効率的ではないこのような生産方法の農園は廃れてしまった。だからこそ、清巳社長は葉桐にしか作れない香味を生産家の皆様と作り続けているのである。

工場の中を見学させていただき、近くの美味しい定食屋でお昼をご馳走になった後、営業の落合さんと共に、実際にシングル・オリジン・ティーが作られている農園を見に行くことになった。

厳しさが美味しさになる

茶園、東頭は標高800メートルの場所にあるという。昼夜の寒暖の差が大きいことが美味しいお茶ができる条件とのことで、東頭も寒暖差が激しく、冬には雪が降り積もるほどの厳しい自然環境だそうだ。

葉桐さんが契約している他のシングル・オリジン・ティーの農園もやはり山の傾斜地にある。平地で大規模な茶園があるような場所はそのために品種改良された茶葉が使われており、厳しい環境のような良い味は出ない。そのためか色や香りなどの誤魔化しが生じる。

「栄西禅師も聖一国師も山の中に茶の種を播いた」と落合さん。日本に茶を持ち込んだ二人がそのような場所に種を播いたのは、中国でも同じような場所で茶が育てられていたからだろう。つまりお茶本来の味というのは、厳しい環境でこそ育まれるものなのだ。手間もかかるし労力もかかる。それでも、そこでしか出せない味がある。

東頭では、一番茶を摘んだ後、茶の木を低く刈りそろえてしまうという。その後は手をかけない。自然そのままで、一年をかけて、木が自らの力で育って行く。昼夜の寒暖差が激しい場所で、夏の日照りを超え、冬の凍てつく寒さを耐えた、厳しい環境の中でもそれでも育とうとする茶の木の力。冬の間蓄えられ、凝縮されたその力が炎のように燃え上がるその瞬間。良い茶とは、そのような生命の輝きの瞬間が凝固した、生命の宝石のようなものなのだろう。

私はそのような景色を美しいと思う。

一品更屋 更屋松柏

* このコラムは更屋松柏の個人的な意見に基づくもので、関係する企業・団体・個人の意見とは異なります。このコラムに関するご意見・ご質問は一品更屋までご連絡をお願い致します。