シングル・オリジン・ティーを巡る冒険 #4 : シングル・オリジンと UL NDT その2

なぜ野点を行うのか。一番の理由は自分との向き合い。

他の人とピクニックのような野点を楽しむのも良いのだが、一品更屋の野点は独服、一人でお茶を点て頂くスタイルである。場合によっては焚き火で料理をし、自作のシリアルバーを菓子にする。普段は抹茶をいただく。

抹茶の野点の難しいところは、陶器の茶碗を持ち歩くのは重く気を使うことと、茶筅を持ち歩かなければならないということ。ウルトラ・ライト(超軽量)を美しとしていることを考えると道具が枷になってしまう。自由でないのは美しくない。

煎茶の場合はどうであろうか、茶を点てなくて良いので茶碗はいらない。もちろん茶筅もいらない。今回試したように茶葉とクッカーがあれば十分お茶を淹れられるのだから、野点としての美点は煎茶の方が評価できる。

だが問題は味だ。いくらウルトラ・ライトであったとしても、茶の味がまずければ、野点としての意味は薄れてしまう。自然の中に居、自然と対面し、自然を畏怖する自己。その思考と自然を繋ぐ触媒は、自然そのものでありながらすっと受け入れられる味が良い。苦い茶では味に感覚が削がれすぎる。

1回目に淹れた茶は温度が高すぎて苦く感じた。葉桐さんでお茶をいただいた時に感じた味を再現できれば、シングル・オリジンの野点が完成する。ウルトラ・ライトで味も良い野点。更屋流野点の新しいスタイルを完成することができる。

思い切って、葉桐さんでいただいた時のように常温の水を試すことにした。1回目同様にクッカーの蓋に茶葉を広げる。ウォーターバックからチタンカップに水を注ぎ、カップからお茶に水を注ぐ。山並みは横向きの光に照らされて一葉一葉が煌めきを増していった。時間をかけ、茶葉に水が行き渡っていく。

クッカーの蓋から再びチタンカップに注がれる時、水はとろりとした黄色のティーに変わっていた。

「旨い」

出汁のような旨みが口に広がり、香りが鼻腔を通り抜ける。うまみが残りながら緑の清々しさが増し、流れるように味に満たされる。調和。心に自然が流れ込み、自己と自然の調和が為される。人としての生命が自然と一体になることを感じる。水だけでここまでの味が出るものなのだ。

野点のポイントは飲むと言う行為にあるのだろう。自然の中で飲む。コーヒーでも良いのだが、やはりお茶、特に緑茶は調和を感じる。我ここに在り、我ここに在らず。己とは何か。

良いお茶を得ることができたのでアテを試してみる。温泉で購入したアンコウの干物をバーナーの火で炙り焼きにする。これをいただきながら、2煎目、3煎目と続ける。水出しのやまかいは味が落ちることなく飲み進めることができた。

山影が足先まで伸びるとあちこちに暗がりが育ちはじめ、やがて周りの全てを飲み込んで夜が訪れた。降り出した雨は、濡れた地面の匂いをまき散らしながら本降りとなっていく。世界が溶け出していくような激しい雨だった。

私はテントの中の暗がりで、ただ降り続ける雨の音を聞いていた。寝袋の中で、侘と寂をしみじみと感じながらそのまま眠りについた。翌朝、目が覚めると雨は上がっていた。

一品更屋 更屋松柏

* このコラムは更屋松柏の個人的な意見に基づくもので、関係する企業・団体・個人の意見とは異なります。このコラムに関するご意見・ご質問は一品更屋までご連絡をお願い致します。